特許事務員は、一般的に女性の割合が高い職種です。ここでは、特に女性の視点から、40代・50代というライフステージに差しかかる世代の働き方や転職について考えてみたいと思います。
この年代は、結婚・出産・育児といったライフイベントを経験してきた、あるいは今まさに直面している方が多くいらっしゃいます。一方で、家庭よりも仕事に重きを置き、専門性を高めながらキャリアを磨いてこられた方もいるでしょう。それぞれの歩み方に正解はありません。
いずれにしても、40代・50代は、働き方の再構築や将来の安定を見据えて、職場環境や仕事の内容を見直す大切な時期でもあります。このページでは、そんな方々が新たに特許事務所への転職を考える際に、事前に知っておくと役立つ視点や検討すべきポイントをまとめました。今後の選択に少しでも参考になれば幸いです。
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専門性を身につけてこそ、長く働ける
40代・50代で特許事務員として安定して働き続けるためには、やはり「専門性」が非常に重要です。特に女性の場合、年齢を重ねると一般的な事務職では求人数が限られてしまい、転職の難易度も上がってきます。そのため、専門性を持たないまま年齢を重ねてしまうと、再就職や転職が厳しくなる傾向があります。
まだ特許事務の経験がない方であれば、できるだけ早いうちにこの分野に飛び込み、業務経験を積んでいくことをおすすめします。特許事務は専門性が高く、ひとたびスキルを習得すれば長期的に活かせるという大きな利点があります。
すでに特許事務所での経験がある方にとっては、さらに一歩進んで、「どのような経験を積んできたか」が問われます。理想的なのは、特許・商標の両方に携わった経験があり、国内・内外・外内それぞれの案件に対応したことがあること。また、出願から登録まで、業務の一連の流れを理解していると非常に強みになります。
ただし、事務所によっては、業務が細かく分業化されていて、ごく一部の業務しか担当できない場合もあります。そのような環境ではスキルの幅が広がりにくく、将来的に転職先の選択肢が狭まってしまう可能性もあるため注意が必要です。
そしてもうひとつ大切なのは、新しい業務を覚えるにはやはり「年齢」が影響するという現実。吸収力や柔軟性が求められる場面では、若いうちに新しい分野に挑戦するほうが圧倒的に有利です。だからこそ、40代・50代の今こそ、自分の専門性を見直し、足りない部分があれば少しずつでも経験の幅を広げていく意識が大切になります。
家庭との両立のために「業務バランスのとれた職場」を選ぶ
40代・50代の女性が転職を考える際に、最も大切な視点の一つが「家庭や育児との両立ができるかどうか」です。子どもがまだ小さく、急な発熱や学校行事などで時間の融通が必要な方も多いですし、親の介護が始まる年代でもあるため、時間的な柔軟性と働きやすい職場環境は不可欠です。
そのためには、勤務時間の制度やテレワークの有無だけでなく、職場全体の業務マネージメント体制がしっかりしているかを確認することが重要です。特に、特定の事務員に仕事が偏って集中しないよう、適切な負荷分散がなされているかという点は、実は見落とされがちですが、長く働けるかどうかに大きく影響します。
たとえば、分業制を採用している特許事務所の場合、「年度末の3月には出願業務が急増する一方で、中間処理担当の業務は比較的落ち着いている」といったように、部門ごとの業務負荷に大きな偏りが出ることがあります。これにより、出願担当に業務が集中してしまい、結果として残業が発生したり、家庭との両立が難しくなるケースも少なくありません。
一方で、業務を一人の担当者が出願から中間処理、登録まで一貫して対応する「一貫制」の事務所では、年間を通じて業務の繁閑がならされやすく、公平に忙しくなるような構造になっている場合もあります。また、分業制であっても、手持ち件数の見える化や業務負荷の調整がしっかり行われている事務所であれば、安心して働き続けられるでしょう。
いずれにしても、家庭との両立を望む方にとっては、その事務所が「業務負荷の偏り」に対してどのように取り組んでいるかを見極めることが、転職成功のカギになります。面接時などに、業務の分担方法や繁忙期の対応について率直に質問してみるのも良いでしょう。
働くママ同士の「助け合いの文化」があるか
40代・50代の女性の多くが、子育てをしながら働いています。特許事務員として長く続けていくためには、ママ同士が自然に助け合える職場の雰囲気があるかどうかが、実はとても重要なポイントになります。
子どもは、突然熱を出して学校を休んだり、予防接種の付き添いが必要だったりと、急なお休みや早退が必要になる場面が多くあります。さらに、中学・高校受験のサポート、PTAの役員や集まり、習い事や部活の大会への引率など、家庭の事情に応じて時間を調整しなければならない場面は少なくありません。
そんなときに、「あのとき助けてもらったから、今度は私が手伝うね」と声をかけてくれるような、温かい関係性が築ける職場であるかどうかが、とても大きな支えになります。これは制度や仕組みではなく、そこで働く人たちの文化や雰囲気によって育まれるものです。
たとえば、同じように子育て経験のある先輩女性が多く働いている職場では、こうした助け合いの文化が自然と根付いていることが多く、急なお休みに対しても理解があり、業務の引継ぎやフォローもスムーズに行われやすい傾向があります。
逆に、子育て世代の社員が少ない職場や、助け合いよりも個人主義が強い職場では、突発的な休みに対する心理的な負担が大きくなってしまうこともあります。
転職先を選ぶ際には、制度や待遇面に加えて、そこで働く人々の関係性や職場の雰囲気にも目を向けてみてください。見学や面接の際に感じられる空気や、実際に働いているスタッフの表情や言葉の端々から、その事務所が「助け合える環境」かどうかを感じ取ることができるかもしれません。
ブランクを作らないことが何より大切
40代・50代で特許事務員としてのキャリアを継続するうえで、何よりも重要なのが「ブランクを作らないこと」です。
出産を機に一度仕事を離れ、しばらく育児に専念していたという方は多くいらっしゃいます。しかし、気づけば数年が経過し、40代後半に差しかかると、再び事務職に復帰するハードルが一気に高くなるのが現実です。
たとえ若いころに非常に優秀で、特許事務の実績が豊富であったとしても、10年以上のブランクが空いてしまうと、業務の感覚や知識が追いつかなくなってしまうことがあります。特許や商標に関する法改正や制度変更もありますし、パソコンや業務ソフトの操作、社内のIT環境やコミュニケーションツールの使い方なども、日々進化しています。
また、ブランクがあると、職場のマナーや働き方の常識も大きく変化しているため、再び現場に戻ったときに戸惑いを感じやすくなります。たとえば、今では当たり前となったテレワークやチャットベースのやりとり、クラウドでの資料共有など、一定のITリテラシーが求められる場面が増えています。
こうした状況を避けるためにも、できるだけ出産前にスキルを身につけておくか、あるいは、出産後になるべく早いタイミングで職場復帰できるよう環境を整えておくことが理想です。
パートタイムや短時間勤務、在宅勤務といった柔軟な働き方を受け入れてくれる事務所も増えていますので、無理のない範囲で仕事を続けていくことが、将来の選択肢を広げることにもつながります。キャリアに空白期間をつくらず、少しずつでも実務に携わっておくことで、将来的な安心と自信を得ることができます。
60歳以降も働けるかどうかを見据えて
最後に、転職先を選ぶうえで「60歳以降も働けるかどうか」という観点も、実はとても大切です。
いまや人生100年時代とも言われ、健康寿命も伸びています。現在30代・40代の方々が定年を迎える20年後には、70歳まで働くのが当たり前の時代になっている可能性が高いでしょう。
これからの時代は、短期間で働いて終わりではなく、長期的に安定して働ける職場を見つけることが重要です。特に40代・50代の方にとっては、今このタイミングでスキルを磨き、同じ職場で信頼関係を築きながら働き続けられる環境を整えていくことが、将来的な安心につながります。
特許事務の仕事は専門性が高く、経験が積み重なることで価値が上がる分野です。スキルと実務経験さえあれば、年齢を重ねても必要とされる場面は多くあります。逆に、場当たり的な転職や短期間での離職を繰り返していると、将来的に職場を見つけるのが難しくなるリスクも。
だからこそ、40代・50代のうちに「この事務所でなら将来まで安心して働ける」と思える場所を見つけておくことが、将来の選択肢を広げるカギになります。長く、穏やかに、専門性を活かして働き続けられる職場かどうか――ぜひその視点も忘れずに、転職先を検討してみてください。