何から始めるか

転職を考え始めた弁理士や特許技術者にとって、最初の一歩を踏み出すのは容易ではありません。インターネットで「弁理士 求人 東京」などと検索しても、膨大な情報の中で何から手をつけていいのかわからなくなることが多いでしょう。求人サイトを見ても、多くの特許事務所が求人広告を出しており、どれが自分に合った職場なのか判断するのは難しいです。

そこで、これから転職を考えている方々の手助けとなるよう、以下に役立つトピックやヒントをまとめました。転職活動をスムーズに進めるためのアドバイスや、応募に至るまでの有用な情報を提供します。

情報の洪水

インターネットで検索しても、多くの情報が溢れている現状があります。転職サービス各社の「弊社に登録して」という呼びかけが至るところで見られ、「報酬アップ」「登録して待つだけ」などの甘い言葉が数多く散見されます。このような情報過多の状況により、転職がかえって難しくなっていると感じる方も多いでしょう。不安なまま転職サービスに登録したものの、何の連絡もなく放置されたり、書類選考で落ちてそのまま音信不通になったりすることもよくある話です。

選考の現状

特許事務所では、転職サービスを重視するところと、求人広告や直接応募を重視するところに分かれます。特に超大型の事務所は転職サービスを重視します。大量の人材を短期間で集める必要があり、一人ひとりの選考にかけられる時間やリソースが限られているためです。転職サービスを利用することで、効率的に適切な人材を迅速に見つけることができます。

一方で、大手・準大手・中堅や小規模の事務所は、求人広告や直接応募を重視する傾向があります。これらの事務所は、個々の応募者の適性や特定の欠員に応じたきめ細やかな対応が求められるため、直接応募者との接触を大事にします。また、転職サービスに支払う紹介料を避けるため、コストを抑えつつ優秀な人材を見つける方法として、直接応募を重視することが多いです。

さらに、中堅や小規模の事務所では、応募者と直接対話することで、その人のスキルや人柄をより深く理解することができ、ミスマッチを防ぐことができます。直接応募は、企業文化に合った人材を見つけるための重要な手段となります。

ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、実際には各事務所の方針や状況により異なることがあります。特許事務所を選ぶ際には、自分のキャリアや希望に合った選考プロセスを提供している事務所を見極めることが重要です。

転職サービスの実情

転職サービスは、市場価値の高い人材、手堅い中堅人材、将来性のある若手や第二新卒など、それぞれに特化しています。しかし、登録画面は誰でもアクセスできるようにオープンにしており、どのサービスが自分に合っているか見極めるのは難しいです。例えば、TVコマーシャルを多く出しているサービスは市場価値の高いエリート人材をターゲットにしており、紹介料も高額です。そのため、このような高い報酬が発生する人材を求める特許事務所は限られています。

また、転職サービスの仕組みとして、求職者の市場価値が高いほど迅速に結果が出る傾向があります。逆に市場価値が低い場合、紹介される企業数や面接の機会が少なくなることがあります。そのため、転職サービスの選定は慎重に行うべきです。多くのサービスが存在し、それぞれ異なるアプローチや得意分野を持っているため、自分のスキルや経験に合ったサービスを選ぶことが重要です。

市場価値の高い人材を扱うサービスは、特定の業界や専門分野に特化しており、クライアント企業もその分野に特化した企業が多いです。これに対し、中堅や若手を扱うサービスは、幅広い業界や職種に対応しており、より多くの選択肢を提供しています。自分に合ったサービスを上手に活用することが、転職活動の成功につながるでしょう。

求人広告と直接応募

求人広告のサービスは費用が低額なため、特許事務所にとって利用しやすい選択肢です。しかし、低額であるがゆえに、多数の求人広告が溢れかえり、求職者にとっては混乱のもととなっています。さらに、古い求人広告が更新されずに残っていることもあり、最新の情報を把握するのが難しいという問題もあります。

多くの特許事務所が自社の公式サイトで求人を出していますが、これもまた頻繁に更新されずに放置されるものもあります。このため、求職者が公式サイトを通じて応募する際には、最新の採用状況を確認するのが難しいことがあります。

一方で、特許事務所が自前のリクルート専用サイトを持っている場合は、定期的にメンテナンスされ、常に最新の採用情報が提供されることが期待できます。これらの専用サイトは、特許事務所の採用意欲が高いことを示しており、求職者にとって信頼できる情報源となります。

このように、求職者にとっては、リクルート専用サイトをチェックすることが重要です。これにより、最新の求人情報を得るとともに、その特許事務所の採用意欲や環境についても把握することができます。直接応募を検討する際には、これらのポイントを踏まえて行動することが、成功への鍵となります。

まず履歴書を書いてみる

まず、ご自身の履歴書と職務経歴書を書いてみることで、自分の経歴を見つめ直すことができます。このプロセスは、単に情報を整理するだけでなく、自分の強みや弱みを再認識する良い機会です。実務経験者であれば、知的財産の分野でどのような業務に携わってきたかを詳細に書き出し、具体的なプロジェクトや成果を強調することが重要です。

未経験者であれば、大学で学んだことやこれまでの業務経験を記載します。例えば、理工系の学位を持っている場合、その分野で学んだ専門知識やスキル、プロジェクトなどを詳述しましょう。これにより、特許事務所で役立つ可能性のある知識や経験をアピールできます。

履歴書を書くことで、自分にできること、できないことを把握し、自分の市場価値を見極めることができます。自分のスキルや経験を客観的に評価し、どの特許事務所やポジションに適しているかを見定めることができるでしょう。また、自分がどの分野でさらに成長できるか、どのようなスキルを磨くべきかも明確になります。これにより、転職活動をより戦略的に進めることが可能になります。

この初めの一歩をしっかり踏むことで、転職活動全体の方向性が定まり、次のステップに進む際の自信にもつながります。

転職の目的を明確にする

新しい特許事務所への転職を検討する際、自分が何を求めているのかを明確にすることが非常に重要です。履歴書を書いていく過程で、自身のキャリアを冷静に振り返り、転職の目的がよりはっきりしてくるでしょう。転職回数が多いと書類選考で不利になる場合もありますので、キャリアの形成には慎重さが求められます。

また、経験豊富な即戦力でも、新しい環境や顧客に慣れるまでにはサポートが必要になることがあります。ですから、たとえ経験が豊富であったり、若くて柔軟性があるからといって、安易に転職を決断するのは避けるべきです。以前と同じように活躍できない可能性も考慮し、さらに慎重な検討が求められます。新しい職場での自分の適応能力やサポート体制を事前によく確認することが重要です。

転職を考えるようになったきっかけが何であるかをしっかりと見つめ直し、現在の職場で改善できる可能性がないか再評価してみることも重要です。改善策が見つかるのであれば、慣れ親しんだ環境でやりなおすという選択肢も間違いではないはずです。再評価のプロセスを通じて、自分に合った転職先を選ぶための基準も自然と見えてくるはずです。最終的に、転職の目的を明確にすることで、自身のキャリア形成にとって最も有益な選択ができるようになります。

次に、特許事務所の情報を集める

次に行うべきは、特許事務所の情報収集です。全国には約5000の特許事務所が存在しますが、自分に合った事務所を見つけるのは、砂の中で砂金を探すようなものです。しかし、落ち着いて探せば難しくはありません。鍵は、規模と勤務地です。この2つの要素で事務所を絞り込むことが可能です。

まず、規模について考えてみましょう。5000の事務所のうち、弁理士が一人だけの事務所は約4000事務所です。つまり、大手や準大手の事務所は全国で100~200程度しかありません。これらの事務所は組織が整っており、教育体制やキャリアパスも明確な場合が多いです。

次に、勤務地で絞り込みます。例えば、「東京」で検索することで、さらに選択肢を絞り込むことができます。東京は広い地域なので、居住地に応じたエリアを選ぶことが重要です。例えば、千葉に住んでいる場合、新宿への通勤は大変です。テレワークが普及しているとはいえ、出社が必要な場合も考慮する必要があります。東京の北部、西部、東部、南部のどこに絞るのか、例えば、具体的な駅名(「渋谷」「新宿」「池袋」)などで絞り込むことで、3~5事務所まで絞り込むことができます。また、自宅からの通勤路線に直通の電車があるかどうかも考慮に入れるとよいでしょう。特に、直通電車が運行されている駅を中心に事務所を絞り込んでもよいでしょう。

このようにして、自分に最適な特許事務所を見つけるための第一歩を踏み出しましょう。正確な情報収集が成功への鍵です。

知り合いの弁理士事務所を見てみる

もし仕事の取引などで知り合いの弁理士がいる場合、その方が所属する特許事務所を検討するのも良いでしょう。知り合いであれば、事務所の文化や働き方について直接情報を得ることができ、内部の雰囲気や業務内容についても把握しやすいです。また、既に信頼関係があるため、入社後の環境適応がスムーズになる可能性があります。その事務所が通勤可能な範囲にあるかどうかも含めて考慮しましょう。

絞り込んだ事務所の求人状況を確認

次に、絞り込んだ特許事務所の求人状況を確認しましょう。特に、リクルートサイトや採用専用サイトを設けている事務所は採用意欲が高く、情報も随時更新されているため、最新の求人状況を把握することができます。

一見すると、求人広告から特許事務所を絞り込まずに、まず規模と所在地で事務所を絞り込むことに違和感を感じる方もいるでしょう。しかし、これにはいくつかの理由があります。

まず、規模と所在地で絞り込めば、人手不足からたいていの事務所は何らかの形で求人広告を出しているからです。もちろん、一部の事務所は求人をしていないかもしれませんが、それは除外すればよいでしょう。一方、先に求人広告で絞り込もうとすると、インターネット上の膨大な情報の中から取捨選択する必要があります。この方法では、良質の事務所が自宅の近くにあることを見逃してしまう可能性があります。

もちろん、求人広告を見ながら並行して規模と所在地で絞り込むことも可能でしょう。異なる方法をうまく組み合わせていけば、特許事務所の選定がスムーズに進むはずです。

次に、応募方法を決める

応募方法の選定は重要なステップです。転職サービスを利用するか、求人広告を通じて直接応募するかを決める必要があります。両者を併用することはできません。転職サービスを通じて紹介された求職者に、採用側が直接連絡を取ることは契約上制限されています。したがって、両方から応募があると、採用側は混乱することになります。

まず、履歴書を書いた時点で、自分の市場価値をある程度把握しているはずです。その情報を基に、どちらの方法が自分にとって最適かを判断しましょう。例えば、まず直接応募を試してみて、それがうまくいかない場合に転職サービスを利用するという方法もあります。ただし、逆に転職サービスで紹介されてうまくいかなかった後に直接応募するのは難しいです。事務所側が求職者に対してアクセスを躊躇してしまうためです。

自分の市場価値を見極めたうえで、最適な応募方法を選び、転職活動を進めましょう。

採用専用サイトを最終チェック

ここまで来たら、次は実際に応募する段階です。まず、応募先の特許事務所の採用専用サイト、俗にいうリクルートサイトをもう一度、しっかりと読み込みましょう。そこには、その事務所の特色や雰囲気、カルチャーが記載されており、自分とのマッチングを判断するのに役立ちます。

さらに、応募先の特許事務所が取り扱っている分野を調べるために、特許庁のJ-PlatPatを活用するのも一つの方法です。これにより、自分の専門分野と応募先の事務所がどの程度一致しているかを確認できます。

そして、応募する際には、勇気を持って一歩を踏み出しましょう。転職は大きな決断ですが、準備をしっかりと行えば、自分に最適な特許事務所を見つけることができるでしょう。

転職は誰もが不安

転職を考えるとき、不安を感じるのは誰もが同じです。特に、選考で落ちたらどうしようという不安は大きいでしょう。しかし、特許事務所の採用は主に実務経験や技術分野が重視されるため、不採用の理由は人柄ではなく、専門性と経験のミスマッチであることがほとんどです。実際の選考は、微妙な技術分野の違いやチームとのバランスなど、細かい要素で決まることがほとんどです。

野球の選手獲得に例えるなら、打力のある外野手を求めているときに、どんなに優れた守備力を持つ内野手でも、チームのニーズに合わなければ採用されないのと同じです。これは、どちらの選手が優れているかという問題ではなく、単にチームの現在の必要に合致しているかどうかの問題です。

ですから、不採用になっても落胆する必要はありません。応募者の素晴らしい人柄や誠実さに惹かれても、欠員の事情や必要なスキルとのミスマッチがあれば、不採用になることが頻繁にあります。特に、長年同じ企業や事務所に勤めてきた人にとっては、転職活動は初めての経験であり、不安は一層強いでしょう。

しかし、大切なのは、不採用を失敗と捉えず、単に経験や分野が合わなかっただけと理解して、前向きな姿勢を持つことです。不採用は、あなたの価値を否定するものではありません。次のチャンスに向けて一歩踏み出すことが、成功への鍵となります。