迫りくる弁理士不足の時代

2024年2月14日、日経XTECHに「弁理士不足に苦しむ特許事務所、今後10年で最大1400人減少」というタイトルの記事が掲載されました。この記事によると、特許事務所に所属する弁理士の数は今後10年で最大1,400人減少すると予測されています。

現在の弁理士の状況

2024年1月29日に公表された日本特許庁の「弁理士制度の現状と将来の課題」についての文書を詳しく読めば、弁理士の年齢分布と将来の傾向に関して様々なことがわかります。

この報告書の「弁理士の年齢分布」グラフによれば、過去10年間で弁理士の総数は大幅に増加しました。2013年には10,171人だった弁理士数は、2022年には11,743人に増加し、全体で15.5%の増加となっています。

しかし、この増加はすべての年齢層で均等に分散しているわけではありません。注目すべき点は、20代から30代の弁理士の数が減少していることです。2013年には約2,800人いた若手弁理士は、2022年には1,257人に減少し、55%の減少となっています。この傾向は、若手弁理士の流入が減少している一方で、中高年の弁理士の数が増加していることを示しています。

報告書では、重要な懸念として、グラフの赤で囲まれた部分に示されるように、約3,000人、つまり全体の約25%の弁理士が60歳以上であることが指摘されています。このグループは今後10年以内に引退や退職をしていくであろうと見込まれ、労働力の大幅な減少が予測されます。

これらの要因を考慮すると、今後10年間で弁理士の数が最大1,400人減少する可能性があると予測されています。この弁理士の減少は業界にとって重大な課題であり、特許制度の効果的な運用を確保するために、新しい人材を惹きつけ、維持するための戦略的な取り組みが必要であると思われます。

特に、40歳以上と40歳未満の弁理士の比率は重要な懸念点です。日本の多くの企業では、定年退職の年齢は60歳です。ほとんどの人が大学卒業後、約22歳でキャリアを始めることを考えると、キャリアの中間地点は40歳となります。この中間地点を念頭に置いて年齢分布を分析すると、2022年時点で40歳未満の弁理士は全体の約10%しかおらず、90%は40歳以上です。

若年層の弁理士試験合格者の動向

新しい弁理士試験合格者の統計を調べることで、弁理士の現状についてさらにわかってくることがあります。

以下のグラフは、日本弁理士会の会員状況報告と日本特許庁の弁理士試験統計に基づいて、2020年から2024年までの40歳未満の弁理士試験合格者と登録弁理士の数を示しています(2024年の合格者は現時点では発表されていない)。2020年から2023年の間、毎年平均150人の40歳未満の個人が弁理士試験に合格しています。つまり、毎年約150人の若手の弁理士試験合格者が安定的に供給されていることがわかります。それにもかかわらず、40歳未満の登録弁理士の数は毎年平均110人減少していっています。

人口減少が弁理士に与える影響

日本は国家スケールでの人口減少という課題に直面しています。この人口の変化は、具体的には、若年層の減少と高齢者人口の増加です。その結果、若年労働者の不足が深刻になってきています。

全体の人口が減少する中で、特許法を含むさまざまな分野に参入する若い専門家のプールも縮小しています。この年齢分布の問題は、若手弁理士の深刻な不足をさらに悪化させ、知的財産の業界全体に大きな負担をかけていくでしょう。この人口問題は、若い人材を弁理士職に引き付け、維持するための戦略的な対策の緊急性を提起しており、知的財産制度が経済成長を支援するために効果的に機能し続けることを確保する必要があります。

このような人口減少という逆風の中、将来の弁理士不足を解消し、弁理士制度を持続させるにはどのような手段があるでしょうか。まず、即効性のある対策として弁理士試験の合格者を増やすことが考えられます。合格者が増えれば、若手弁理士も増えると考えられますが、若手合格者が増えても弁理士登録をしなかったり、短期間で登録を抹消してしまっては、効果は薄くなってしまいます。

したがって全体的な状況を分析した上で、試験制度の点検だけではなく、併せて他の適切な対応策、例えば、若手弁理士の支援プログラムを強化したりすることも検討すべきかもしれません。さらに、若手弁理士のキャリアパスや将来の展望を明確に示すことも、若手の登録促進に繋がるでしょう。若い人たちにとって弁理士という職業が魅力的なものになるよう、官民挙げて、取り組んでほしいと思います。

結論

現在の弁理士の年齢分布は不均衡であり、40歳未満が約10%であるのに対し、40歳以上が約90%を占めています。そして、多くの若い候補者が試験に合格しているにもかかわらず、若手弁理士の割合は依然として減少傾向のままです。

日本特許庁の報告書「弁理士制度の現状と将来の課題」は、特許事務所の人員不足の深刻さを強調しています。しかし、特許事務所と同様に、民間企業も若手弁理士の確保に同様の課題に直面しています。つまり、40歳未満の弁理士が約10%しかいないため、この限られた若手専門家を巡る奪い合いが激化しています。

この問題に対処するためには、若手弁理士の数を維持し増加させるための改革が不可欠だと考えます。改革は、若手弁理士の減少に効果的に歯止めをかけ、弁理士の持続可能な未来につながるものでなければなりません。

コメントは利用できません。